2015年8月17日月曜日

日本型経営システムの改革

円高の問題を考える場合、日本型経営システムの改革との関連を見逃すことはできない。日本型経営システムの矛盾は円高に典型的に表れる。一九八五年のプラザ合意によって始まった円高に関してもっとも心配されたのは空洞化であったが、現実には、空洞化は起こらなかった。これには日本型経営システムが大きな寄与を果たした。

日本型経営システムにおいてもっとも困ることは企業が倒産することである。終身雇用制度・年功序列賃金制度の下では、労働者は企業間を自由に移動できない。円高で企業が潰れると、労働者は途中で退社を余儀なくされ、他のこれまで寄与のなかった見知らぬ企業に入社することになり、労働者にとってきわめて不都合なことになる。会社に入り直すことは一からやり直すことであり、いわば努力して獲得してきた既得権益をすべて放棄させられることになる。

これまでいた企業内で蓄積した知識は他企業では役に立だない。企業の利益への寄与が小さい中途入社者は、賃金は低いところからスタートせざるを得ない。しかも、これまで享受してきた社宅などのフリンジ・ベネフィット(給与外賃金)はただちになくなる。本来、どの会社で働いても関係のないはずの労働者にとっても、日本では会社が存続することが決定的に重要なこととなる。会社は労働者が全生活、全人格を委ねる組織となっているのである。さらに、日本ではどの企業に属すかはただちにプレステージ(社会的名望)を意味している。大企業から中小企業への移行はプレステージの低下を意味する。日本型経営システムでは、ほとんどの人にとって会社はすべての存在となっている。

そうであるからこそ企業を潰さないために労使はともに大きな努力を払う。円高となれば合理化を行う。かなり無理な配置転換率単身赴任も我慢する。解雇以外なら過剰雇用を解決するためになんでも行う。企業が潰れることは欧米の企業では資本家が損をすることであるが、日本では労働者も大きな損失を被ることになる。

となればいうまでもなく、企業の存続は資本家、経営者、労働者の誰にとってももっとも重要な課題となり、労使はともに会社を潰さないために最大限の努力を払う。日本型経営システムでは情報を共有化して、協調によって生産性を上げている。すなわち、QCグル≒フに見られるように、グループで情報を交換し、創意工夫を行って作業を調整して品質・生産性を引き上げる。作業する関係者全体で議論して生産性の引上げを妨げている膝路を見つけ出す。

日本型経営では、管理者は基本的に作業の命令者でなく、労働者の自発性を引き出し、協調を高めることが仕事となる。結果として、ガソバロウのかけ声の下、合理化が行われることになる。これらの関係は会社内の労使の関係だけではない。親企業と下請け、メインバンクとの関係などの企業グループ全体でも同様の協力が行われる。情報を共有して親会社が何を望んでいるかを理解して協力していくことがキーとなる。したがって、簡単には外国企業や外国人に置き換えられるわけにはいかなかった。