2015年7月13日月曜日

日本の農業に活力をもたらす

キンドルには1500冊以上の書籍を入れることができるようだ。これも大変なことだ。1500冊といえば、個人の蔵書としてはちょっとした規模だ。1週間に3冊読んだとしても、すべて読むのに10年かかる計算になる。10年分の書籍が入ってもしかたないと思う人もいるかもしれない。しかし、自分の書籍のすべてが数百グラムの機器に入ってしまうと考えたらすばらしい。海外であろうと、職場であろうと、あるいは電車の中であろうと、自分の書斎を連れていくことができるのだ。

キンドルのようなサービスはいずれ日本語媒体でもどんどん利用可能になるはずだ。そうなったとき、書店は大きな被害を受けることが想像される。出版社や新聞社などは、紙媒体でも電子ブックでも、コンテンツに対して課金できるので問題ないが、紙の媒体を流通販売していることでビジネスが成り立っている書籍取次や新聞宅配などの仕組みにとっては大きな影響が及ぶだろう。音楽の世界でもネット配信が拡大してもCD媒体がなくなったわけではないので、紙媒体の書店がなくなることはないだろうが。先日、香川県で農業についての興味深い取り組みを見てきた。山西農園という会社の事例である。

この会社の本業は土木業であり、四国の高速道路の路肩の草刈りなども行っている。高速道路からは膨大な量の雑草が出る。それをかつてはゴミとして焼却してきた。だが、水分を多く含んだ雑草を燃やすためには、かなりの燃料費がかかる。あるとき、この草を堆肥として利用したらどうだろうか、と考えるようになったという。焼却コストがかかるゴミから、経済価値を生む堆肥になるのだから、これだけで大きな意味がある。しかし、それだけではない。雑草からつくった堆肥は有機肥料である。有機農法の野菜などに「安心安全」を求める時代には、有機肥料ということに高い付加価値がっくのだ。

そのうえ、これは植物性の有機肥料なのだ。市場に出回っている多くの有機の野菜や食材は牛ふんなどの動物性の有機肥料を多く利用している。動物性が悪いといっているわけではないが、一部には動物性の有機肥料と窒素分についての問題を指摘する専門家もいるようだ。植物性の堆肥で作物を育てることができれば、それを高く評価する消費者もいるはずだ。この山西農園のケースが重要な理由は、それが土木業者という他の分野からの農業への参入だからだ。山西農園はただ異業種から参入するだけでなく、高速道路の草刈りという作業を請け負っている土木業者だからこそ可能な新たな付加価値を農業に持ち込むことができるのだ。

日本の農業に活力をもたらすうえで、一つの重要な鍵となるのは、外から多くの新規参入者を取り込むということだ。新たに農業をしようとする若者や、他の業界で経験を積んだ企業を農業分野に取り込むことで、日本の農業に新たな空気を吹き込むことができるのだ。山西農園のことをもう少し紹介しよう。今、この会社は耕作放棄地の活用に取り組んでいる。もともと桑畑であった広大な土地が長期間放置されていた。雑草や潅木が繁茂する耕作放棄地は、有害鳥獣を増やすことにもなりかねない。地域にとっても迷惑な存在だ。しかし、有機農法という視点で見れば、10年以上、農薬も化学肥料も利用されていない貴重な土地でもある。