2015年6月11日木曜日

「人間界や自然界の現象でデリバティブの対象にならないものは何もない」

他にも、アメリカではハリケーン保険と地震保険をスワップしたり、銀行から融資を受けている企業同士が固定金利による返済プランと変動金利による返済プランとをスワップしたり、日本の株式投資とアルゼンチンのそれとをスワップするデリバティブなど、実に多種多様な商品が開発されている。いってみれば、「人間界や自然界の現象でデリバティブの対象にならないものは何もない」といった具合である。

ヒラリー・クリントン大統領夫人も、保健医療関連会社の株を組み合わせたへッジファンドに九万ドル(約一〇〇〇万円)ほど投資し、個人資産を増やしていたといわれている。要は、アメリカでは個人でも企業でも、投資のリスクを回避する金融商品がごく一般的に普及しているのである。日本はテレビや自動車といった物を製造することには発想も経験も豊富にあるが、ことデリバティブのような金融商品を開発する力はまったく育っていない。

そこで、日本の企業のニーズに応えようとするなら、日本の金融機関は欧米のデリバティブ商品をそのまま買うか、彼らと提携して日本市場向けの新商品を開発するしか、今のところ道はない。「証券業界のガリバー」と呼ばれる野村誼券にしても、ロンドンで仕入れたソロス・ファンドを売っているに過ぎないといわれるくらいだから、他は推して知るべしである。このところ、日本の金融機関が相次いで欧米との業務提携に走っている背景のひとつは、そんなところに隠されているのである。

とはいえ、デリバティブ取引の歴史は浅い。最初のデリバティブ商品がアメリカで生まれたのは一九八〇年代の初めで、為替や株式相場の予期せざる変動のリスクを回避するのが主な目的であった。初めて売り出された際には、経済学界と金融界が手を結んで生み出した「ポートフォリオ理論」や「オプション価格形成モデル」など、画期的で科学的な理論が使われている、と盛んに宣伝された。

そして、これらの商品を開発するにあたっては、将来の相場を予測するための高度な確率、統計手法も必要となるため、その方法は宇宙口ケットの軌道計算にたとえられたほど。実際、NASA(航空宇宙局)から転職してきた科学者も動員されたため、デリバティブ商品の開発者たちは「ウォール街のロケット・サイエンティスト」と異名を取るほどの人気を博した。