2015年12月11日金曜日

予算作成の順序

「整備の熟度」、つまり住民の協力が得られるか否かを事業実施の条件にかかげたことは、最終的には公共事業について住民が切り札を握るとトうことを県が認めたということである。公共事業を住民が左右できる。これは、計画から実施場所、時期、費用、そして談合、業者まですべてを「官」が決めてきた従来の公共事業システムからみれば画期的な改革だ。

「官権」から「民権」への流れが、あの岩手県でおきていることに、注目したい。現に、一九九九年度の県予算の作成にあたって、国の補助金がっく事業でも、県の負担や便益、つまり費用対効果などを考えて、見送られるものも出ているという。

ようやく国も政策評価は自治体だけでなく、国にも広がろうとしている。橋本総理大臣が北海道の「時のアセスメント」を採用した(パクッた)のはその一つである。しかし国がなぜ政策評価をするようになったかを調べると、それは単に流行といった一過性のものではなく、旧来型のいわゆる御役所仕事を改めるために、不可避的だとトうことが分かってくる。

日本の行政の特徴として、国、自治体の問題点は、入り口は慎重だが、出口は放任という実態を指摘できる。たとえば、予算を考えてみよう。予算作成の順序は次の通りだ。はじめに、政府が全体的なガイドラインを決める。それにもとづいて、①各省庁が自治体や業界などからの陳情を受ける、②各省庁の案の作成、③大蔵省の査定、④査定に対する各省庁などの復活折衝、そして⑤各省大臣の政治的調整を経て、⑥閣議決定し、⑦国会に提出される。予算書をみると膨大なもので、ぎっしり数字がつまってトる。しかも一円の誤りもない。各省庁の担当官は、この数字のもとになった政策について、それこそ何十時間も語り続けることのできる資料を持っている。

国会での審議にそなえて、政府委員となった官僚はあらゆる質問などに答えられるように入念に準備する。法律を制定する場合も同じだ。各省庁内部での根回し、審議会、そして与党との調整を経て、国会に提出される。重要法案になると、法案は議員だけではなく、マスコミなどを通じて国民にも知らされる。国会は、これらを十分か否かを別にして、審議し採決する。

2015年11月12日木曜日

買い物や観光目的

減少傾向の航空機と対照的に、利用者が増えているのが高速バスだ。「昨年末あたりから、ビジネス客の利用者が増え始めました」と話すのは、東京や大阪などの都市圏に向け高速バスも運行する伊予鉄道(松山市)の担当者。バス利用の主力は里帰りの学生や観光客ではあるが、昨年末以降、東京、大阪の利用状況は大きく上向き、増便対応を取る機会が多くなった。

なかでも比較的距離が短い大阪については、交通機関同士の競争は激烈だ。松山から大阪までの運賃を比較すると、航空機が正規の往復で約3万円なのに対し、バスは約1万2000円と半額以下。また、JR四国は岡山までの特急と新幹線をセットにした「阪神往復フリーきっぷ」で対抗し、有効期間によるが往復で1万6~7000円。

時間では航空機が有利だが、割安な運賃などを勘案すると利用目的ではバスや鉄道の利点も多い。業界関係者は「ビジネス客は、出張などで移動経費が抑制されるとどうしても航空機から、バスや鉄道にシフトする傾向が顕著」と話す。

利用が伸び悩むなか、円高・ウォン安の影響で、昨年末からソウル便の搭乗率が急上昇中だ。ソウルへは韓国のアシアナ航空が週に6便運航しているが、昨年末まで40~60%で推移していた搭乗率は今年2月は84・3%を記録。同社によると7~8割の乗客が女性といい、ほとんどが買い物や観光目的という。

3月中旬にソウルから帰国した女性会社員(34)は「好きなブランド品を安く手に入れるには今しかないと思って旅行に出かけました」と話す。各旅行会社は次々と韓国への旅行商品を販売しており、同社の担当者も「1~2月の閑散期に多くの利用があるのはありがたい限り」と打ち明けた。

松山空港利用促進協の関係者は「国内、また本県の経済のためには、日本人が海外へ出かけるのではなく、韓国など海外から客を呼ぶことが本来的に重要」と複雑な表情を見せていた。

2015年10月12日月曜日

福祉産業の構造

日本経済がこの世紀末の不況を「超えて」、新しい段階へと飛躍を遂げるためには、民間の「非営利組織」(NPO)の存在がますます重要になりつつある。こうした組織の存在意義は、もちろんさまざまな角度から論じることができるが、それをさしめたり経済的諸問題との関わりに限定したとしても、その意義ぱ大きい。

たとえば右にみたシルバー産業の創出という点についても、それがトータルな高齢者福祉システムの一貫として位置づけられるものである以上、公的福祉を担当する行政だけでなく、広く福祉を現実において支えているボランティアーグループなどの非営利組織との関わりを抜きに考えることはできない。

たとえば、名古屋市で実施されているホームヘルパー事業(「なごやかヘルプ事業」)は、現在一四〇〇人の主婦を中心にしたスタッフによって担われている。それは、地域住民による訪問介護のボランティアーグループ(二五人)から始まった「地域福祉を考える会」の活動を基盤とし、そこに行政が「社会福祉協議会」を通して十数年にわたるボランティア活動の実績のうえに資金援助等のかたちで参加するという歴史を経て、現状に到達したものである。

「福祉社会に対応する税制改革協議会」(連立与党)による社会保障の将来展望に関する報告書においても、北欧に倣った介護システムの構築のためには、ホームヘルパーの大幅な増加やシルバーパワーを活用した「職業的ボランティア」の創設など、介護を支える「人づくり」がきわめて重要なポイントになるとして、その推進を打ち出している。

行政による公的福祉、ボランティア及びそれを中核とした非営利組織や第三セクターによる福祉活動があり、これをとりまくかたちで私企業による人的サービスを伴う福祉産業が存在する。そしてさらに、その外周に各種の介護器具や補助用具等を供給する福祉関連産業が存在する。こうした重層的でトータルな社会福祉のシステムを拡充させていくということなしに、企業による「福祉」分野への参入も成功しえない。

2015年9月11日金曜日

都市における気候環境の特性

降水量のほとんどは雨だが、降り積もった雪は、春から夏にかけ、雪溶け水となって山間部の土壌を潤す。このことが、じつは日本が世界でも有数の緑ゆたかな森林国となっているゆえんでもある。

日本は″山の国″である。地形図をよく眺めたことのある人なら誰でも知っているように、北から南にかけて縦断する山また山。二千メートル・三千メートル級の山が陸続として連なっている。その合間を縫うように、海へとつづく平野部もしくは湾岸・沿岸にそうかたちで点々と都市居住地帯が展開されている。日本列島の約七三%は山なのである。

このように山が多いということに加え、強い季節風と多雨によって、地形の基質をかたちづくっている土壌が浸食され、無数の網の目のような水系が国土を覆う。ちなみに、日本が長い歴史を通じて独特の農耕文化を培ってきたのも、こうした自然環境の特色に負っているということになろう。

以上、三つの際立った特徴のほか、多くの活火山・休火山をふくむ火山帯が存在し、たとえば雲仙・普賢岳のように突如として地域住民の生活をおびやかし、あるいは強度の地震による津波が沿岸の市町村を襲うこともけっして稀ではない。さらには、寒流と暖流とが日本列島を取り巻くように押し寄せ、気候や植生などの自然環境に影響を及ぼすといった点も見逃せないが、ここではこれ以上、立ち入った説明は省くことにする。

さて、自然の風土にのっとって居住地域が形成され、もろもろの社会的な活動が展開される空間となるからには、人工物環境の集約される都市といえども、なんらかのかたちで自然の影響を受けざるをえない。

2015年8月17日月曜日

日本型経営システムの改革

円高の問題を考える場合、日本型経営システムの改革との関連を見逃すことはできない。日本型経営システムの矛盾は円高に典型的に表れる。一九八五年のプラザ合意によって始まった円高に関してもっとも心配されたのは空洞化であったが、現実には、空洞化は起こらなかった。これには日本型経営システムが大きな寄与を果たした。

日本型経営システムにおいてもっとも困ることは企業が倒産することである。終身雇用制度・年功序列賃金制度の下では、労働者は企業間を自由に移動できない。円高で企業が潰れると、労働者は途中で退社を余儀なくされ、他のこれまで寄与のなかった見知らぬ企業に入社することになり、労働者にとってきわめて不都合なことになる。会社に入り直すことは一からやり直すことであり、いわば努力して獲得してきた既得権益をすべて放棄させられることになる。

これまでいた企業内で蓄積した知識は他企業では役に立だない。企業の利益への寄与が小さい中途入社者は、賃金は低いところからスタートせざるを得ない。しかも、これまで享受してきた社宅などのフリンジ・ベネフィット(給与外賃金)はただちになくなる。本来、どの会社で働いても関係のないはずの労働者にとっても、日本では会社が存続することが決定的に重要なこととなる。会社は労働者が全生活、全人格を委ねる組織となっているのである。さらに、日本ではどの企業に属すかはただちにプレステージ(社会的名望)を意味している。大企業から中小企業への移行はプレステージの低下を意味する。日本型経営システムでは、ほとんどの人にとって会社はすべての存在となっている。

そうであるからこそ企業を潰さないために労使はともに大きな努力を払う。円高となれば合理化を行う。かなり無理な配置転換率単身赴任も我慢する。解雇以外なら過剰雇用を解決するためになんでも行う。企業が潰れることは欧米の企業では資本家が損をすることであるが、日本では労働者も大きな損失を被ることになる。

となればいうまでもなく、企業の存続は資本家、経営者、労働者の誰にとってももっとも重要な課題となり、労使はともに会社を潰さないために最大限の努力を払う。日本型経営システムでは情報を共有化して、協調によって生産性を上げている。すなわち、QCグル≒フに見られるように、グループで情報を交換し、創意工夫を行って作業を調整して品質・生産性を引き上げる。作業する関係者全体で議論して生産性の引上げを妨げている膝路を見つけ出す。

日本型経営では、管理者は基本的に作業の命令者でなく、労働者の自発性を引き出し、協調を高めることが仕事となる。結果として、ガソバロウのかけ声の下、合理化が行われることになる。これらの関係は会社内の労使の関係だけではない。親企業と下請け、メインバンクとの関係などの企業グループ全体でも同様の協力が行われる。情報を共有して親会社が何を望んでいるかを理解して協力していくことがキーとなる。したがって、簡単には外国企業や外国人に置き換えられるわけにはいかなかった。

2015年7月13日月曜日

日本の農業に活力をもたらす

キンドルには1500冊以上の書籍を入れることができるようだ。これも大変なことだ。1500冊といえば、個人の蔵書としてはちょっとした規模だ。1週間に3冊読んだとしても、すべて読むのに10年かかる計算になる。10年分の書籍が入ってもしかたないと思う人もいるかもしれない。しかし、自分の書籍のすべてが数百グラムの機器に入ってしまうと考えたらすばらしい。海外であろうと、職場であろうと、あるいは電車の中であろうと、自分の書斎を連れていくことができるのだ。

キンドルのようなサービスはいずれ日本語媒体でもどんどん利用可能になるはずだ。そうなったとき、書店は大きな被害を受けることが想像される。出版社や新聞社などは、紙媒体でも電子ブックでも、コンテンツに対して課金できるので問題ないが、紙の媒体を流通販売していることでビジネスが成り立っている書籍取次や新聞宅配などの仕組みにとっては大きな影響が及ぶだろう。音楽の世界でもネット配信が拡大してもCD媒体がなくなったわけではないので、紙媒体の書店がなくなることはないだろうが。先日、香川県で農業についての興味深い取り組みを見てきた。山西農園という会社の事例である。

この会社の本業は土木業であり、四国の高速道路の路肩の草刈りなども行っている。高速道路からは膨大な量の雑草が出る。それをかつてはゴミとして焼却してきた。だが、水分を多く含んだ雑草を燃やすためには、かなりの燃料費がかかる。あるとき、この草を堆肥として利用したらどうだろうか、と考えるようになったという。焼却コストがかかるゴミから、経済価値を生む堆肥になるのだから、これだけで大きな意味がある。しかし、それだけではない。雑草からつくった堆肥は有機肥料である。有機農法の野菜などに「安心安全」を求める時代には、有機肥料ということに高い付加価値がっくのだ。

そのうえ、これは植物性の有機肥料なのだ。市場に出回っている多くの有機の野菜や食材は牛ふんなどの動物性の有機肥料を多く利用している。動物性が悪いといっているわけではないが、一部には動物性の有機肥料と窒素分についての問題を指摘する専門家もいるようだ。植物性の堆肥で作物を育てることができれば、それを高く評価する消費者もいるはずだ。この山西農園のケースが重要な理由は、それが土木業者という他の分野からの農業への参入だからだ。山西農園はただ異業種から参入するだけでなく、高速道路の草刈りという作業を請け負っている土木業者だからこそ可能な新たな付加価値を農業に持ち込むことができるのだ。

日本の農業に活力をもたらすうえで、一つの重要な鍵となるのは、外から多くの新規参入者を取り込むということだ。新たに農業をしようとする若者や、他の業界で経験を積んだ企業を農業分野に取り込むことで、日本の農業に新たな空気を吹き込むことができるのだ。山西農園のことをもう少し紹介しよう。今、この会社は耕作放棄地の活用に取り組んでいる。もともと桑畑であった広大な土地が長期間放置されていた。雑草や潅木が繁茂する耕作放棄地は、有害鳥獣を増やすことにもなりかねない。地域にとっても迷惑な存在だ。しかし、有機農法という視点で見れば、10年以上、農薬も化学肥料も利用されていない貴重な土地でもある。

2015年6月11日木曜日

「人間界や自然界の現象でデリバティブの対象にならないものは何もない」

他にも、アメリカではハリケーン保険と地震保険をスワップしたり、銀行から融資を受けている企業同士が固定金利による返済プランと変動金利による返済プランとをスワップしたり、日本の株式投資とアルゼンチンのそれとをスワップするデリバティブなど、実に多種多様な商品が開発されている。いってみれば、「人間界や自然界の現象でデリバティブの対象にならないものは何もない」といった具合である。

ヒラリー・クリントン大統領夫人も、保健医療関連会社の株を組み合わせたへッジファンドに九万ドル(約一〇〇〇万円)ほど投資し、個人資産を増やしていたといわれている。要は、アメリカでは個人でも企業でも、投資のリスクを回避する金融商品がごく一般的に普及しているのである。日本はテレビや自動車といった物を製造することには発想も経験も豊富にあるが、ことデリバティブのような金融商品を開発する力はまったく育っていない。

そこで、日本の企業のニーズに応えようとするなら、日本の金融機関は欧米のデリバティブ商品をそのまま買うか、彼らと提携して日本市場向けの新商品を開発するしか、今のところ道はない。「証券業界のガリバー」と呼ばれる野村誼券にしても、ロンドンで仕入れたソロス・ファンドを売っているに過ぎないといわれるくらいだから、他は推して知るべしである。このところ、日本の金融機関が相次いで欧米との業務提携に走っている背景のひとつは、そんなところに隠されているのである。

とはいえ、デリバティブ取引の歴史は浅い。最初のデリバティブ商品がアメリカで生まれたのは一九八〇年代の初めで、為替や株式相場の予期せざる変動のリスクを回避するのが主な目的であった。初めて売り出された際には、経済学界と金融界が手を結んで生み出した「ポートフォリオ理論」や「オプション価格形成モデル」など、画期的で科学的な理論が使われている、と盛んに宣伝された。

そして、これらの商品を開発するにあたっては、将来の相場を予測するための高度な確率、統計手法も必要となるため、その方法は宇宙口ケットの軌道計算にたとえられたほど。実際、NASA(航空宇宙局)から転職してきた科学者も動員されたため、デリバティブ商品の開発者たちは「ウォール街のロケット・サイエンティスト」と異名を取るほどの人気を博した。

2015年5月16日土曜日

ケネディの初めての大きな勝利

その結果、一九六一年三月、労使の交渉は一時間あたり約十セントの賃上げで妥結した。これは、ケネディの希望どおり、生産性の伸び率以下に抑えた賃上げだった。初め十七セントの賃上げを要求として掲げていた労組は、物価安定のために、しぶしぶ政府に協力することになったのだ。

ところが四月になって、このヶネディの努力を無にするように、USスチールが、一トン当たり六ドル鉄鋼価格を値上げすると発表したのである。ケネディは、自分が馬鹿にされたと感じ、激しい怒りを爆発させた。だが鉄鋼業界は、ケネディに対してだけでなく、これまでも半世紀以上にわたって、アメリカの大統領に反抗することに成功してきたのだった。

ケネディも含めて歴代の大統領は、こうした鉄鋼業界のやりかたに対抗する有効な手段を持だなかった。しかしケネディは、この挑戦を受けて立石ことにした。まずケネディは、「USスチール及び他の有力鉄鋼会社が、一トン当たり約六ドルの値上げを同時に発表したことは、公共の利益に対するまったくの不当で無責任な反社会的行為である」という声明を発表し、国民に支持を訴えた。

さらにケネディは、まだ値上げに踏み切っていないインランドースチール社を説得し、値上げを思い止まらせるとともに、国防省の発注を値上げしていない鉄鋼会社に移すことを決定した。また、各鉄鋼仝社がいっせいに値上げを発表したことが独占禁止法に違反していないかどうか調査するとの声明も発表した。

USスチールが値上げを発表した三日後の四月十三日朝、インランドースチール社が値上げをしないことを発表した。続いて、カイザー・スチール社とコロラド燃料製鉄会社も、いまは値上げしない、と発表した。その間に、ゴールドパーク労働長官とUSスチール社の役員とのあいだで秘密会談が続けられた。大統領の代理人のクラークークリフォードもそれに加わった。

昼過ぎ、アメリカ第二の鉄鋼メーカーであるベスレヘムースチール社が、ついに値上げを撤回した。そして、その日の午後遅く、とうとうUSスチール社も、すでに発表していた値上げを取り消したのである。これが、国内問題における、ケネディの初めての大きな勝利だった。

2015年4月11日土曜日

アメリカの研究開発費

アメリカでは航空業界の規制緩和のあと旅客マイルあたりの操業コストを安く抑えた航空会社が新規参入して一時市場が混乱したものの、支線の大都市集甲システム(これもコンピューターがなければ実現不可能だった)とコンピューターによる予約システムを活用した大手航空会社が結局は新しく参入してきたライバル社を市場から追い出すのに成功した。航空業界では、現在予約システムに最先端の技術がつぎつぎに導入されているところだ。

アメリカでは、脱工業化時代を迎えてアメリカ経済全体が低賃金のサービス部門になってしまうのではないかと心配する声が聞かれる。だが、先で詳述するように、このような心配は杞憂だ。脱工業化は、すでに終わりが見えはじめている。サービス産業は一九八〇年代に急速に成琵 長したが、一九九〇年代にもほかの産業を上回るスピードで成長しつづけるとは思われない。また、たとえサービス産業が成長しつづけたとしても、経済の非工業化が起こる心配はないし、サービス産業の成長を抑制する必要もない。

今後進めるべき戦略は、サービス産業のなかでも高賃金の雇用を創出する部門に力を入れると同時に、低賃金の部門については賃金レベルが上がるような新しいテクノロジーを開発していくことだ。アメリカではサービス産業の賃金は製造業の三分の二程度しかないが、ドイツや日本では八五ないし九三パーセントまで達している。テクノロジーが進んだからといって、かならずしもサービス産業が低賃金セクターになるというわけではない。適切なテクノロジーを選んで導入していけば、大半のサービス業は高賃金雇用に転換できるはずだ。

人間の頭脳が生み出す比較優位の重要性が増大し、それにともなって技術力の競争か激化している現状は、各国の研究開発支出にもはっきりとあらわれている。過去一五年間かけて、日本とドイツは研究開発支出をアメリカと同じレベル(GNPの三パーセントを少し切る程度)まで引き上げてきた。日本は、一九九〇年代には研究開発支出をさらに増やす計画を発表している。ヨーロッパは、政府が資金の一部を援助する形で全欧規模の研究開発コンソーシアム(ユーレカ、ジェシー、エスプリなど) の設立を急いでいる。

アメリカの研究開発支出は、現在転換点に立っている。冷戦の終結を受けて軍事支出が削減されれば、国防関係の研究開発費が少なくなるのは目に見えている。民間の研究開発支出も、一九八〇年代の企業買収戦争の後遺症で負債をかかえている企業が多いから、少なくとも短期的には減少の方向へ向かうだろう。アメリカの研究開発支出は好不況につれて大きく変動するから確定的なことは言いにくいが、やはり他の国々が研究開発支出を強化しつつある時期だけに、アメリカの研究開発費だけが削減の方向に動いていくのではないかという心配が消えない。

2015年3月12日木曜日

細胞の構造の違い

細菌の細胞も、私たちのものと基本的には同一である。細胞に必要な物質を取り込んだり、不必要なものを排出したりする細胞膜に囲まれて、遺伝子であるDNAから成る染色体や、酵素や毒素のようなタンパクを作るのに必要なリボソームのような構造が存在する。異なるのは、染色体やリボソームの構造が少し違うということのほかに、細胞膜の外側に細胞壁という構造が存在することである。細菌は、原則的にこの細胞壁がないと生存できない。

ところで細菌は、細胞の構造の違いから、さらに二つに分けられる。専門用語では、これをグラム陽性菌とグラム陰性菌という。このグラムというのはデンマークの研究者の名前であるが、グラム陰性菌の代表として大腸菌が、グラム陽性菌の代表としてブドウ球菌が挙げられる。

いま細胞膜を薄い布に、細胞壁を龍にそれぞれたとえてみよう。するとグラム陰性菌は、薄い布の袋を中に容れたひ弱な龍の外側を、さらに別の薄い布の袋で覆ったもの、陽性菌は薄い布の袋を丈夫な龍に収めたようなものと考えられる。つまりグラム陰性菌には、薄い細胞壁の外側に、さらに細胞膜と似た脂質二重層という脂肪を主成分とする、外膜と呼ばれる膜が存在する。

2015年2月12日木曜日

国家統制的な計画経済

中国は国家統制的な計画経済に則っており、製品が売れても売れなくても、国営企業において、計画通りに製品を製造し続けてきた。だから売れ残った製品が国営企業の倉庫に山積みとなって放置されるという情景が全国的に見られた。それでも国が面倒を見てくれるから、気にしない。それを抑制して、社会主義体制の枠組みの中ではあるものの、基本的に庶民のニーズと購買欲の動向が経済の方向性を決めていくという、市場経済化の方向に切り替えたのだ。そして戸惑っている人民に「白猫でも黒猫でも、ネズミを捕る猫が良い猫だ」という思想に基づいた「先富論」の号令を掛ける。

白猫とか黒猫というのは、何を意味しているかというと、「あなたが走資派であろうとなかろうと、革命思想に燃えた分子であろうとなかろうと」ということを指し、「金儲けに走っても罰せられませんよ」「それよりも、あなたは率先して金持ちになりなさい。それが祖国を救うことになるのだから」と勇気づけた。

毛沢東時代に、「上からの命令があれば従順に従う」という習性を身につけた人民は、「国家が許したのだ」ということを実感するようになり、金に向かって突進することになったのである。新中国(中華人民共和国)が誕生して間もない一九五六年、毛沢東は「百花斉放、百家争鳴」を打ち出して、「言いたいことは何でも言いなさい。政府の批判でも党の批判でもいい」と全人民に奨励したことがあった。毛沢東を信じていた人民は、知識人を中心として喜んでさまざまな意見を自由に書いて政府に提出した。

ところがその翌年の五七年。批判的な意見を書いた者たちを「右派」と決め付け、一網打尽にして逮捕し、牢獄にぶち込んでしまったことがある。これを「反右派闘争」あるいは「五七運動」と言うが、そのせいぺ前述した「大躍進」のときも、知識人たちは科学的分析や批判をする代わりに沈黙を選んだ。それでもなお、文化大革命により知識人はさらに執拗に痛めつけられている。

2015年1月15日木曜日

無料ビジネスの本質

いまの話は、ぴとつの企業のなかの10の部署での話だとしても、ほぼ同じように考えられます。ぴとつの企業グループの10の関連企業の話だとしても、採算が悪くて将来性がない1~2社を整理してしまうという結論になりやすいでしょう。消費が伸び悩むことで、不況(消費不況)になって経済成長が止まってしまう(あるいは、伸び悩む)と、経営が苦しくなった企業の多くは、一部の労働者の賃金を下げて対応しやすいということです。一部の企業が倒産することでも、そこで働いていた人たちだけが、大幅に所得を下げるという結果が生じます。

そのうえで、コスト削減で経営を維持できた企業は、消費者への販売を回復させるために、値下げをしやすい。値下げをしない企業の多くも、資源価格高騰などに応じた値上げはしない。巧みな価格戦略を操って、積極的に値上げをするTDLやマクドナルドのような企業は例外的で。実際に日本全体では、不況がモノやサービスの価格をじわじわと下げてきた。だからデフレ不況になっているわけです。このパターンでのデフレは。消費者を勝ち組と負け組に分けやすい。賃金さえ維持されれば、モノキサービスは平均的に前より安く買えますから、実質的にみて所得は上昇し、生活水準を高められます。この点に注目し、「デフレはいいことだ」と主張する人が出てきたりします。そして、なんらかの既得権に守られて、自分の所得は下がりにくい立場の人たちがこれを支持したりします。

逆に、リストラ、賃金力ット、賃金が相対的に安い非正規雇用の増加などで、大幅に低い所得になってしまった人たちは、デフレで実質的におカネの価値が上がっているとしても、焼け石に水。実質でみても、所得が大幅に下落する人たちが出てきます。さらに、非正規雇用の比率が高まり、かつ、売上や利益を伸ばしにくい構造の業種が増えることで、年齢や経験を重ねても賃金が伸びにくい人たちが増えます。当然ながら、生活苦を感じる世帯が増加します。問題は。そういった世帯がどの程度の比率になっているかです。日本銀行が3ヵ月ごとにおこなっている「生活意識に関するアンケート調査」の、2010年6月から2011年3月までの結果をみると、「1年前と比べて収入が減った」と回答している人が5割前後、将来について「1年後は収入が減る」と予想している人が4割弱となっています。

しかも、これらはすべて、東日本大震災の前におこなわれた調査です。リーマンショックのあとの調査では、「収入が減った」との回答が6割前後、将来「収入が減る」との予想が4割強(ひどいときは約5割)でしたから、少し改善に向かっていたのですが、震災・原発危機・電力不足などの影響でまた悪化するのは必至です。自分の1年前と現在の所得につリで、誰もが3ヵ月ごとに正確に回答できるかどうか疑問が残る、また、控え目に答えようとする心理も働きそうだ、などと考えると、このアンケート調査をそのまま信じるのも危険です。しかし、消費においては消費者の心理こそが重要なことも多く、本当は所得が増えていても、減ったと思い込んでいれば、消費にはマイナスに働くでしょう。

ある程度の誤差を考えても、日本の3世帯に1世帯(あるいはそれ以上)は、所得が伸びないことを前提に消費をしているといえそうです。あくまで感覚的な判断ですが、どうみても、消費不足を悪化させそうな数字です。なぜなら、いまはおカネに余裕がない人におカネを貸すことで、消費を増幅させる機能を果たしてきた金融ファイナンス)のしくみが、いまや大幅に機能を低下させているからです。日本では近年、消費者金融(サラ金)に対する規制が厳しくなり、おカネに余裕がない人がおカネを借りて買い物をするといったことが、どんどんむずかしくなっています。なお、消費者金融業界が、厳しい規制と相次ぐ訴訟とで弱体化してしまったことは、最大手だった武富士が経営難に陥り、2010年9月に経営破綻したことに象徴されています。