2015年4月11日土曜日

アメリカの研究開発費

アメリカでは航空業界の規制緩和のあと旅客マイルあたりの操業コストを安く抑えた航空会社が新規参入して一時市場が混乱したものの、支線の大都市集甲システム(これもコンピューターがなければ実現不可能だった)とコンピューターによる予約システムを活用した大手航空会社が結局は新しく参入してきたライバル社を市場から追い出すのに成功した。航空業界では、現在予約システムに最先端の技術がつぎつぎに導入されているところだ。

アメリカでは、脱工業化時代を迎えてアメリカ経済全体が低賃金のサービス部門になってしまうのではないかと心配する声が聞かれる。だが、先で詳述するように、このような心配は杞憂だ。脱工業化は、すでに終わりが見えはじめている。サービス産業は一九八〇年代に急速に成琵 長したが、一九九〇年代にもほかの産業を上回るスピードで成長しつづけるとは思われない。また、たとえサービス産業が成長しつづけたとしても、経済の非工業化が起こる心配はないし、サービス産業の成長を抑制する必要もない。

今後進めるべき戦略は、サービス産業のなかでも高賃金の雇用を創出する部門に力を入れると同時に、低賃金の部門については賃金レベルが上がるような新しいテクノロジーを開発していくことだ。アメリカではサービス産業の賃金は製造業の三分の二程度しかないが、ドイツや日本では八五ないし九三パーセントまで達している。テクノロジーが進んだからといって、かならずしもサービス産業が低賃金セクターになるというわけではない。適切なテクノロジーを選んで導入していけば、大半のサービス業は高賃金雇用に転換できるはずだ。

人間の頭脳が生み出す比較優位の重要性が増大し、それにともなって技術力の競争か激化している現状は、各国の研究開発支出にもはっきりとあらわれている。過去一五年間かけて、日本とドイツは研究開発支出をアメリカと同じレベル(GNPの三パーセントを少し切る程度)まで引き上げてきた。日本は、一九九〇年代には研究開発支出をさらに増やす計画を発表している。ヨーロッパは、政府が資金の一部を援助する形で全欧規模の研究開発コンソーシアム(ユーレカ、ジェシー、エスプリなど) の設立を急いでいる。

アメリカの研究開発支出は、現在転換点に立っている。冷戦の終結を受けて軍事支出が削減されれば、国防関係の研究開発費が少なくなるのは目に見えている。民間の研究開発支出も、一九八〇年代の企業買収戦争の後遺症で負債をかかえている企業が多いから、少なくとも短期的には減少の方向へ向かうだろう。アメリカの研究開発支出は好不況につれて大きく変動するから確定的なことは言いにくいが、やはり他の国々が研究開発支出を強化しつつある時期だけに、アメリカの研究開発費だけが削減の方向に動いていくのではないかという心配が消えない。