2013年3月30日土曜日

小型カメラの誕生

現像液から上げた印画紙は、次に酢を水で薄めた定止液に入れてやります。これでアルカリ性の現像液を中和させ、現像をストップさせるわけです。そのあと定着液に七、八分入れて画像を固定させたら、水洗に回します。いまの樹脂加工の印画紙は流水で十分も洗えばOKですが、昔のバライタ紙は薄い紙で一時間、厚手の紙は二時間の水洗が必要でした。白黒写真が短期間で変色するのは、たいてい水洗不足のためです。水洗が終わって乾燥させたら、最後にかすかなキズやゴミの痕をスポット筆を使って直し、ようやく一枚の写真のでき上がりです。

現像の手順について、つい昔話を長々としてしまいましたが、世界的な写真家ユージンースミスは、たった一枚のプリントのために一週間かけることもあったといいます。長いこと白黒写真に取り組んできた人には理解できる話ではないでしょうか。いまの新聞社は、ほとんどがカラーネガですが、出版社ではカラーネガと白黒それぞれのフイルム自動現像機を入れて現像時間の短縮をはかっています。カメラのオート機構で均一な露出が可能になったおかげで、暗闇でフィルムの調子を見ながら現像する手間をはぶき、安心して機械にまかせられるようになったのです。

いまでも白黒フィルムのタンク現像をしているフリーフンスの写真家や熱心なアマチュアカメラマンは少なくありませんが、白黒フィルムはメーカーも生産量を落としていますし、特に昔ながらのバライタの印画紙は入手しづらくなっていると聞きます。それでも撮影したフィルムを自分で現像し、プリントにまで仕上げることができたら、こんな楽しいことはありません。それがむずかしければ、フィルム現像は町のラボに頼んでも、最終工程のプリントだけは自分でやるという手もあります。シャッターを押す瞬間に感じた「何か」が、引伸機を通して印画紙に焼き付けられ、現像液の中で徐々に姿を現わしてくる様は、まさに新たな生命の誕生を思わせてくれます。

薬品はすぐに使える状態のものが手軽に手に入りますので、引伸機さえあれば誰にでもできます。印画紙も最近は、引伸機に内蔵されたフィルターを使えば、どんな調子(コントラスト)のフィルムでも、号数を考えることなく階調の整ったプリントが得られるものが出ています。問題は暗室ですが、これまでだとお座敷暗室やお風呂場暗室ということになりますが、近頃はパイプで組み立てるテント型暗室も発売されているようです。

前にも書いたことですが、いまは大変なクラシックカメラーブームです。中古カメラも扱うICS輸入カメラ協会二十二社が、毎年、春に開催している銀座松屋デパートでの「世界の中古カメラ市」は、二〇〇一年に二十三回目を迎えましたが、一週間の開催期間の売り上げは三億八千万円に達したとのことです。秋には、新宿の伊勢丹デパートや京王百貨店でも開催されていますが、どの会場も、全国各地からカメラファンがツアーを組んで押しかけ、初日などは会場に入るのが精一杯、人垣の間に首を突っ込んでショーケースをのぞくのがやっとの状態です。