2015年5月16日土曜日

ケネディの初めての大きな勝利

その結果、一九六一年三月、労使の交渉は一時間あたり約十セントの賃上げで妥結した。これは、ケネディの希望どおり、生産性の伸び率以下に抑えた賃上げだった。初め十七セントの賃上げを要求として掲げていた労組は、物価安定のために、しぶしぶ政府に協力することになったのだ。

ところが四月になって、このヶネディの努力を無にするように、USスチールが、一トン当たり六ドル鉄鋼価格を値上げすると発表したのである。ケネディは、自分が馬鹿にされたと感じ、激しい怒りを爆発させた。だが鉄鋼業界は、ケネディに対してだけでなく、これまでも半世紀以上にわたって、アメリカの大統領に反抗することに成功してきたのだった。

ケネディも含めて歴代の大統領は、こうした鉄鋼業界のやりかたに対抗する有効な手段を持だなかった。しかしケネディは、この挑戦を受けて立石ことにした。まずケネディは、「USスチール及び他の有力鉄鋼会社が、一トン当たり約六ドルの値上げを同時に発表したことは、公共の利益に対するまったくの不当で無責任な反社会的行為である」という声明を発表し、国民に支持を訴えた。

さらにケネディは、まだ値上げに踏み切っていないインランドースチール社を説得し、値上げを思い止まらせるとともに、国防省の発注を値上げしていない鉄鋼会社に移すことを決定した。また、各鉄鋼仝社がいっせいに値上げを発表したことが独占禁止法に違反していないかどうか調査するとの声明も発表した。

USスチールが値上げを発表した三日後の四月十三日朝、インランドースチール社が値上げをしないことを発表した。続いて、カイザー・スチール社とコロラド燃料製鉄会社も、いまは値上げしない、と発表した。その間に、ゴールドパーク労働長官とUSスチール社の役員とのあいだで秘密会談が続けられた。大統領の代理人のクラークークリフォードもそれに加わった。

昼過ぎ、アメリカ第二の鉄鋼メーカーであるベスレヘムースチール社が、ついに値上げを撤回した。そして、その日の午後遅く、とうとうUSスチール社も、すでに発表していた値上げを取り消したのである。これが、国内問題における、ケネディの初めての大きな勝利だった。